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  2月24日夕、授賞式が行われ、以下のような賞が発表になりました。今年の審査員長はドイツのトム・ティクヴァ監督で、女優のセシル・ド・フランスさんや、『ラスト・エンペラー』などの映画音楽でも知られるミュージシャンの坂本龍一さんら、6名が審査を行いました。 
 
 金熊賞の『タッチ・ミー・ノット』は、他人から触られることができない女性のセラピーを通して、性の多様性と、それを受け入れることで自己を解放することをテーマにした、フィクションとドキュメンタリーの中間の、独特のスタイルを持った作品でした。

 

アルフレッド・バウアー賞と女優賞を獲得した『女相続人』は、財政が逼迫し、親から受け継いだ思い出の品々を売らねばならなくberlin_p_2018_0502なった老婦人チェラが主人公。すべてを取り仕切ってきたパートナーのチキータが借金のために刑務所に入ることになり、それまで部屋に閉じこもって絵ばかり描いていたチェラが、隣人の頼みで無免許運転で白タクを始め、外の世界を知るという、人間味たっぷりなフェミニズム映画でした。

 

昨年の金熊賞も女性の作品(ハンガリーのエニェディ・イルディコー監督『心と体と』)でしたが、今年も上位2賞が女性監督の作品が占め、女性の活躍が目立つ映画祭になりました。

 

本賞の授賞式の前日、国際批評家連盟賞の授賞式が行われました。パノラマ部門の受賞作は行定勲監督の『リバーズ・エッジ』で、オープニングの翌日帰国した監督に代わって、東京国際映画祭berlin_p_2018_0503の矢田部吉彦プログラミング・ディレクターが賞を受けました。

 

フォーラム部門の受賞作『象はじっと座っている』(原題:大象席地而坐)は、今年のベルリンで、私が最も心を動かされた作品でした。親友の妻との浮気がバレて親友に目の前で投身自殺されたヤクザな男、娘夫婦から老人ホームに入るよう迫られている老人、言いがかりをつけられた友達の加勢に行って、いじめっ子を過って殺してしまう少年、教師との援助交際が噂になっている少女など、急激な経済発展に取り残され、社会のひずみの中で苦しみ、あがく人々の1日(朝から翌日の夜明けまで)を描いた3時間50分の群像劇。題名は、満州のどこかにいるはずの、じっと座っている象が見たいという少年の夢から来ています。監督の胡波は1988年生まれ。北京電影学院で映画を学び、先に小説を書いて有名になった人で、この作品が長編デビュー作ですが、昨年10月に29歳の若さで自殺。映画の中に漂う、ただならぬ暗さに、彼の死が暗示されているような気がしました。社会へ向ける視線の鋭さ、緻密な作話法に確かな才能が感じられるだけに、早すぎる死が惜しまれます。

 写真(上)は「
国際映画批評家賞を受賞した『女相続人』チーム。左からチキータ役のマルガリータ・イルンさん、マルセロ・マルティネッシ監督、右端がチェラ役で女優賞を受賞したアナ・ブルンさん」
 写真(中)は「
行定勲監督に代わって国際映画批評家賞を受け取った矢田部吉彦​プログラミング・ディレクターと審査を担当したジェームズ・エヴァンズさん」

 写真(下)は「亡くなった胡波監督に代わって受賞のスピーチをする監督のお母様」​

【受賞結果】

コンペティション部門

 金熊賞(作品賞):

    『タッチ・ミー・ノット』監督アディナ・ピンティリエ(ルーマニア)

 銀熊賞(審査員大賞):

    『マグ』監督マウゴジャタ・シュモフスカ(ポーランド)

 銀熊賞(アルフレッド・バウアー賞):

    『女相続人』監督マルセロ・マルティネッシ(パラグアイ)

 銀熊賞(監督賞):

    ウェス・アンダーソン監督『犬ヶ島』(アメリカ)

 銀熊賞(女優賞):

    アナ・ブルン『女相続人』

 銀熊賞(男優賞):

    アントニー・バジョン『祈り』監督セドリック・カーン(フランス)

 銀熊賞(脚本賞):

    マヌエル・アルカラ、アロンソ・ルイスパラシオス

    『博物館』監督アロンソ・ルイスパラシオス(メキシコ)

 銀熊賞(芸術貢献賞):

    エレナ・オクプナヤ(衣装と美術に対して)

    『ドヴラートフ』監督アレクセイ・ゲルマンJr(ロシア)


国際映画批評家連盟(
FIPRESCI)賞


コンペティション部門:『女相続人』マルセロ・マルティネッシ監督(パラグアイ)

パノラマ部門:『リバーズ・エッジ』行定勲監督(日本)

フォーラム部門:『象はじっと座っている』胡波監督(中国)