2020filmex03_p_01_sub 11月7日夕、有楽町朝日ホールで第21回東京フィルメックスのクロージング・セレモニーが行われました。今年はコロナ禍下の開催のため、例年プレス向けに開かれていた記者会見がなく、受賞者に直接質問できなかったのは残念でした。

 万田邦敏監督を長とする5人の審査員は、最優秀作品賞にヒラル・バイダロフ監督の『死ぬ間際』(アゼルバイジャン)、審査員特別賞に池田暁監督の『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』(日本)を選定。バイダロフ監督はリモートで、池田監督は舞台上で、それぞれ受賞の挨拶を行いました。

2020filmex03_p_02_sub 作品賞の『死ぬ間際』はヴェネツィアでの高評価通りの結果でしたが、残念ながら未見。『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』は、今回のフィルメックスで私が最も面白く見た作品でした。

 川を挟んで2つの村が戦争をしている、日本によく似たどこかの国。戦闘がどこで行われているのか、戦況がどうなのか、勝っているのか負けているのか、すべてがぼんやりとしたなか、朝9時から夕方5時まで戦争に“出勤”していた主人公が、軍楽隊に異動になって…というストーリーです。市山ディレクターとのインタビューにある通り、日本の現状2020filmex03_p_03_subをカリカチュアした映画で、独特のユーモアが見どころ。プロパガンダで洗脳され、自分で考えることをやめてしまう怖ろしさ、戦争という“血なまぐさい現実”が、どこか遠い、ぼんやりとしたものになっている怖ろしさを喜劇として描く池田暁監督の才能に感服。押井守監督の『スカイ・クロラ』にも似た雰囲気を感じました。

 学生審査員賞は春本雄二郎監督の『由宇子の天秤』に。この作品は、10月30日に閉幕したプサン国際映画祭のニュー・カレンツ部門でも受賞しています。

2020filmex03_p_04_sub●香港の今、浮き彫りに
 観客賞の『七人楽隊』は、香港のアン・ホイ、ジョニー・トー、ツイ・ハーク、サモハン、ユエン・ウーピン、リンゴ・ラム、パトリック・タムという蒼々たる七人の巨匠が、香港に捧げた短編オムニバスで、18年12月に亡くなったリンゴ・ラムの短編は、どんどん姿を変えていく香港への遺言のような掌編でした。

 『七人楽隊』が描かなかった(描けなかった)、雨傘運動で揺れる香港の現状の部分を担っていたのが特別招待作品として上映されたスー・ウィリアムズ監督の『デニス・ホ2020filmex03_p_05_subー:ビカミング・ザ・ソング』でした。デニス・ホーは香港で生まれ、家族が移住したカナダで育ち、アニタ・ムイに憧れて歌手をめざし、アニタ・ムイに弟子入りした後、ソロ・デビューを果たした香港のトップ・スターです。アニタ・ムイとの別れ、ゲイのカミング・アウトを経て、アニタ・ムイの影響を離れ、自分らしさを追求する中で雨傘運動が起こります。香港の自由を守るため、積極的に活動に参加する彼女は次第に中国当局から活動を制限されるようになるのですが、それにも屈せず、活動を続ける彼女に感動しました。

 『七人楽隊』と『デニス・ホー:ビカミング・ザ・ソング』は互いを補完しあって現在の香港の姿を映し出しています。この2本を同時に上映したフィルメックスに敬意を表します。

 ちなみに、『デニス・ホー:ビカミング・ザ・ソング』を含む12本のコンペおよび特別招待作品(残念ながら『七人楽隊』は対象外)が期間限定で有料配信されます。詳細は東京フィルメックスの公式HPをご覧下さい。

写真①(上から)
授章式の模様。受賞者と審査員。中央で賞状を持っている池田暁監督(左)と春本雄二郎監督(右)。2列目左から審査員長の万田邦敏監督、クリス・フジワラさん(池田監督の陰)、トム・メスさん、エリック・ニアリさん、坂本安美さん。1.8メートルのソーシャルディスタンスを守っているため、写真が撮りにくい。
写真②
『デニス・ホー:ビカミング・ザ・ソング』上映後のQ&Aの模様。右がスー・ウィリアムズ監督。
写真③
観客賞『七人楽隊』のプロデューサー兼監督のジョニー・トー監督からのメッセージ。
写真④
最優秀作品賞『死ぬ間際』のヒラル・バイダロフ監督からのメッセージ。
写真⑤
観客賞の投票もQRコードによるペーパーレスで行われた。