2020tokyokokusai_ishizaka_san●コロナ禍、東南アジアが深刻
――今年のアジア映画で見どころをうかがいたいんですが。

石坂:今年のアジア映画は、台湾特集以外のアジア映画はクロスカット・アジアという小冊子に出ています。最初のTOKYOプレミアの13本はコミッティーで選んだもので、アジアは石坂がメインで、市山さんに意見を聞くという形。ワールド・フォーカスのアジアの7本はコミッティーとは関係なく、私が中心に選びました。

 TOKYOプレミアはコンペがあると思って出してくれた人達の作品から選んだものです。応募本数から言うと、激減したということはないですね。ざっくり東アジア、西アジア、中東くらいに分けると、がくっと減ったのは東南アジアで、近いアジアと遠い中東はあまり変わりませんでした。コロナ以前に出来ていたというか、撮影さえ出来ていれば後は何とかなるので、今年はそれほどダメージがなかった。逆に東南アジアは深刻でした。

 

――フィルメックスも東南アジアが減ったと聞きました。

石坂:逆に、特集する台湾は今年は非常に当たり年でしたね。コロナを押さえ込んでいるので、ちゃんと回っている。

 

――オードリー・タンIT大臣のおかげですね。

石坂:予選があって準決勝があって決勝のようなイメージで言うと、コミッティーに上がる前に予備選考がある。アジア・中東だけで500本くらい応募が来ますから。そこを通過したものがコミッティーにあがるわけですが、削っても削っても本数がなかなか減っていかなかったのが中東です。圧倒的に強かった。結局中東は5本くらい残っています。イラン、トルコ、イスラエルあたりは近年ずっと強いんですが、必ずしも政情が安定している国でもないのに、社会問題をきっちり踏まえたうえで、人間のドラマが重厚に描かれる映画が多く、コミッティーの面々も嗜好はいろいろ違うけれども、中東に関しては強いということで何本も残りました。      


シー・モン監督の『アラヤ』など中国三作品がおすすめ

――ワールド・フォーカスのアジアは石坂さんが選んだ?

石坂:私が選ぶというより、他の映画祭の受賞作を優先しました。ラヴ・ディアスは直前のヴェネツィアで監督賞だし、アン・ホイはヴェネツィアで名誉金獅子賞、イランの『荒れ地』もオリゾンティのグランプリです。

 

――映画祭で評判だったものを集めた?

石坂:そうです。TIFFのワールド・フォーカスとフィルメックスの特別招待が似ているかもしれません。

 

2020tokyokokusai_02_p_02――今年のアジア映画のお薦めを何本かあげていただければ。

石坂:トータルとしては中東が強かったけど、個別のお薦めは東京プレミアの中国の3本です。シー・モン監督の『アラヤ』とシェン・ユー監督『兎たちの暴走』の2本は両方とも新人の女性監督ですが、まったく作風が違い、両方とも素晴らしいです。『アラヤ』はどちらかというとスローシネマというか、仏教的な世界観で、輪廻とか諸行無常とか、相当勉強しています。アラヤとは架空の村で、何人かの主人公の別々のストーリーが20年近い過去と現在で進んでいく話です。

 

――アラヤって村の名前なんですね。

石坂:仏教用語です。

 

――阿頼耶識の阿頼耶?

石坂:そうですね。『兎たちの暴走』の方はまったく逆で、少女のところに消息不明だった生みの母親が戻ってきて、お母さんが不良母で、娘と組んで悪さをするところに追い込まれていくという、はっちゃけたパンク映画で、突っ張った第六世代の面々が脇を固めているので、これはちょっと面白いです。中国は他に、以前『ミスター・ノー・プロブレム』を撮ったメイ・フォンというロウ・イエの脚本家だった人の『恋唄1980』があります。改革開放が始まったくらいの、まだ経済発展がスローテンポだった頃に学生だった男女4人の話で、時代でいうとジャ・ジャンクーの『プラットホーム』の頃、あれは巡回の歌舞劇団の話でしたが、こちらは大学生でその後に内モンゴルに行く話で、やっぱりいいです。ロウ・イエと組むと、もうちょっと過激な話になるけど、これはもうちょっと押さえて、自伝的に若き日を見つめています。

●社会性に富む青春映画

 それから『チャンケ』は韓国・台湾合作で、韓国に住む台湾生まれの華人の少年のアイデンティティ探しの話なんですが、イメージ的に言うと在日コリアンの話みたいな。チャンケというのは要するに中国人を悪く言う言葉です。高校生で差別を受けたりするなかで、不良の韓国人の女の子と仲良くなっていくという。社会問題も出てくるんだけど、青春映画の王道みたいなところもあって、この不良の女の子の女優さんがすごくいい。

 

――台湾映画と韓国映画とはテイストが違うから、それがミックスされるとどういう風になるのか。

石坂:韓国映画の作り込んだ感じがなくなり、もう少し台湾的な自然な感じになる。作り込んだ方で面白い映画は、チョ・バルン監督の『スレート』です。これも従来のコンペなら入ったかどうかという作品で、女性ソード・アクション映画です。スレートというのはカチンコのことで、撮影の現場で違う世界に入ってしまい、そこで悪と戦う。ちょっとSFも入っている。これは韓国映画のお得意のパターンですね。

 さっきのメイ・フォンも含めて、TIFFにリピーターで帰ってきてる監督、たとえば『Malu 夢路』というのがありますが、これは2017年に監督賞を獲ったエドモンド・ヨウですし、『カム・アンド・ゴー』のリム・カーワイ、彼は大阪ベースでしたけど、10年くらい前の杉野希妃特集のときに来てもらって以来です。

 

――石坂さんと話をしているうちに、TIFFのアジア部門とフィルメックスとの棲み分けがうまくいくような感じがしてきました。石坂さんが選ぶものは市山さんが選ばないし、その分、可能性が増える。今年はゲストが来られませんが、この時期にアジアからいろんな人が来日したら、一時的にアジア映画の中心的な渦が東京で作れる可能性がありますよね。

石坂:市山さんがTIFFに近づいてくれたし、というか、そもそも私の2代前のTIFFアジア部門の先輩だし、私もTIFFに入る前はフィルメックス贔屓だったわけで、今年は60歳になったことだし、ちゃんと二人で何かやるべきだと思いましたね。

 

――フィルメックスで引っかからないものが必ずあって、それをアジアの未来が拾っている感じはしていました。両方の視点があって、アジアはよくなるとは思います。新人が希望を持てるというか。

石坂:これまではプサンがあって、TIFFがあって、フィルメックスだったので、出す側はどこに出そうか迷う。2つに分かれていた日本は、合体した方がプサンの対抗軸になるし、この時期プサンと東京に行けばアジア映画が沢山みられる、という風になればいいなと。そうなるために市山さんと協力したいと強く思っております。

 

――それはいい考えですね。市山さんと話しているときは市山さんが話すメリットは分かるけど、あまり総合的なビジョンが見えなかったんですが、今、石坂さんと話していて、新しいビジョンが見えてくる気がしないでもない(笑)。

石坂:そのためにはTIFFの側で来年以降の部門、編成ですよね、それをTIFFの中で詰めていかないと。

 
 写真(上)は石坂健治シニア・プログラマー。
 写真(下)はメーン会場の風景

(10月29日、東銀座の東京国際映画祭事務局にて。)