11月25日夜、授賞式とクロージング作品のアッバス・キアロスタミ監督の遺作『24フレーム』の上映が行われました。実は、この作品は5月のカンヌで先に見ていたので、私は授賞式前に開かれた審査員記者会見にのみ出席しました。
今年は最優秀作品賞が2作、それも同じインドネシアの女性監督作という特例的な結果となり、審査がかなり割れたことを思わせました。
モーリー・スリヤ監督の『殺人者マルリナ』は、夫が死に、自分を襲った強盗たちを殺害したマルリナが、友人の妊婦と離れた町の警察署へ行く旅を、西部劇仕立てで描いたもの。ガリン・ヌグロホ監督のアイデアを元にしたフェミニズム映画でした。アミラ・アンディニ監督の『見えるもの、見えざるもの』は、10歳の少女タントリと双子の弟タントラが主人公。弟が脳障害で意識不明の寝たきりになったことで、姉はそれまで見えなかったものが見えてくるという、バリ島の伝説を元にした幻想的な映画でした。アンディニ監督はガリン・ヌグロホ監督の娘で、ヌグロホ監督の影響なのか、それともインドネシアに固有のものなのか、テーマも雰囲気もまったく違う2本に共通の時間の流れのようなものを感じました。
学生審査員賞の『泳ぎすぎた夜』は、フランスのダミアン・マニヴェル監督と五十嵐耕平監督の共同監督作。魚市場で働く父親となかなか会えない少年が、市場へ父親を訪ねていく1日を描いたもの。共同監督というと、意見の対立やテイストの相違があったりするものですが、この二人は完璧に一致したようで、その完璧さが作品の長所ではなく、短所になっているように私は感じました。映画にもっと隙間が開いていて、見る側の思いが入り込めたらもっとよかったと思います。
私が一番好きだったのは、台湾の新鋭ホァン・シー監督のデビュー作『ジョニーは行方不明』でした。台北に出てきてホテルの受付で働き始めた娘、同じアパートに住む少年、アパートの屋根の修理を頼まれる何でも屋の青年という3人を主人公に、台北という大都会で孤独を感じながら暮らす3人の人生が交差し、ふれあう様子を描いていきます。題名は、娘が買った携帯にジョニーという男宛に見知らぬ人から電話が掛かってくることから。私も経験がありますが、監督の友人に本当にあった出来事で、友人は次第にその見知らぬ相手に親近感を持ったのだそうです。侯孝賢のアシスタントを務めただけあって、家族の食卓の描写などに侯監督の影響が見られましたが、広く開いた空間にゆったり流れていく時間が心地よい、新人離れした作品でした。
【受賞結果】
●コンペティション部門
最優秀作品賞
『殺人者マルリナ』監督モーリー・スリヤ(インドネシア)
『見えるもの、見えざるもの』監督カミラ・アンディニ(インドネシア)
学生審査員賞
『泳ぎすぎた夜』監督ダミアン・マニヴェル、五十嵐耕平(フランス・日本)
観客賞
『ニッポン国VS泉南石綿村』監督 原一男(日本)
●タレンツ・トーキョー・アワード2017
『I wish I could HIBERNATE』(ピュレヴダッシュ・ゾルジャーガル/モンゴル)
スペシャル・メンション
『Doi Boy』(スパッチャ・ティプセナ/タイ)
【写真(上)】今年の受賞者と審査員。前列左から受賞者のカミラ・アンディニ、
【写真(中)】今年のタレンツ・トーキョーの講師と受講者。中央左寄りで賞
【写真(下)】