2月18日の夜、授賞式が行われ、以下のような受賞結果が発表になりました。個人的には金熊賞を期待していたアキ・カウリスマキが監督賞に終わり、ちょっとがっかりです。
金熊賞の『肉体と魂』は前のレポートでも触れたように、面白い映画で好きでしたが、まさかここまで大きな賞を獲るとは正直思いませんでした。
審査員大賞のアラン・ゴミスは、セネガルとギニアビサウにルーツを持つフランス人で、今回はコンゴの首都キンシャサを舞台に、交通事故に遭った息子の手術費を捻出しようとする歌手フェリシテの姿を描いたもの。フェリシテを演じたヴェロ・チャンダ・ベヤの木彫りのお面のような美しい顔と歌の迫力に魅了されました。
ホン・サンスの『夜、浜辺で一人』は、妻のある映画監督との不倫に疲れた女優が、ハンブルグに傷心旅行に行く前半と、韓国に戻って、ロケハンに来た映画監督の一行と浜辺で遭遇する後半から成る作品で、いつものホン・サンスより、私的でメランコリーな感じがしました。
『白夜』は、死んだ老父の遺品を片付けるために、疎遠だった息子を連れてノルウェイに行き、父子関係を立て直そうとする男を描いたもの。父子は安易な和解には至らないなど、劇的な要素を排した誠実な作りながら、その分面白みが少なかったので、受賞は予想外でした。主演のゲオルグ・フリードリヒはオーストリアの名優で、『ワイルド・マウス』というオーストリアのコンペ作品にも出演していました。
その『ワイルド・マウス』は、リストラで新聞社をクビになった音楽欄担当記者が、クビにした上司に復讐するというコメディで、コメディアンのヨーゼフ・ハーダーが監督兼主演を務めています。ワイルド・マウス(野ネズミ)とは、プラタ-遊園地(『第三の男』の観覧車で有名なウィーンの遊園地)にある乗り物のことで、主人公が偶然出会った幼なじみの男に、この乗り物の権利を買う金を出してやるのです。
実は、友人のベルリンの新聞記者もリストラにあったばかり。映画の中の、上司が言う「君の給料で若手が3人雇える」という台詞や、主人公が「僕がクビになると、愛読者が黙っていない」と言うと上司が「君の愛読者なんて、もう皆死んでるよ」と言い返す台詞に、いちいち共感していました。新聞記者が花形だったのはいつのことだったでしょう。思えば殺伐とした時代になったものです。
さて、長い間ご愛読いただいた<シネマに包まれて>は、今回のベルリン映画祭レポートをもって終了することになりました。私にレポートを書く機会を与えてくださった河北新報社の故桂直之さん、毎回お世話になった元メディア局局長の佐藤和文さん、スタッフの皆さん、ここまで読んでくださった皆さんに感謝いたします。ありがとうございました。
【受賞結果】
●コンペティション部門
金熊賞:『肉体と魂』監督イルディゴ・エンエディ(ハンガリー)
審査員大賞:『フェリシテ』監督アラン・ゴミス(フランス)
アルフレッド・バウアー賞:アグニェシュカ・ホランド、カーシア・アダミック
『足跡』監督アグニェシュカ・ホランド(ポーランド)
監督賞:アキ・カウリスマキ
『希望の裏側』(フィンランド)
女優賞:キム・ミニ
『夜、浜辺で一人』監督ホン・サンス(韓国)
男優賞:ゲオルグ・フリードリヒ
『白夜』監督トマス・アルスラン(ドイツ)
脚本賞:セバスチャン・レリオ、ゴンザロ・マザ
『ファンタスティック・ウーマン』監督セバスチャン・レリオ(チリ)
芸術貢献賞:ダナ・ブネスク(編集)
『アナ、マイ・ラブ』監督カリン・ペーター・ネッツァー(ルーマニア)
●国際批評家連盟賞
コンペティション部門:『肉体と魂』監督イルディゴ・エンエディ
パノラマ部門:『振り子』監督フリア・ムラ(ブラジル)
フォーラム部門:『愛より偉大な感情』監督マリー・ジルマヌス・サバ(イスラエル)
●テディ賞(LGBTをテーマにした映画に対する賞)
作品賞:『ファンタスティック・ウーマン』監督セバスチャン・レリオ
審査員特別賞『彼らが本気で編むときは、』監督荻上直子
写真(上)は「夜、浜辺で一人」のホン・サンス監督と女優賞のキム・ミニ
写真(中)は主会場ベルリナーレ・パラストのロビーに飾られた「ミスター・ロン」チーム
写真(下)は映画館CinemaxXの入口