2月20日の夜、授賞式が行われ、以下のような賞が発表になりました。最高賞の金熊賞には、予想通りジャンフランコ・ロージの『海の火』に授与され、今年の映画祭のイベントだった8時間を超えるラヴ・ディアスの大作『悲しい秘密への子守歌』はアルフレッド・バウアー賞という、新しい映画の地平を拓く作品に与えられる賞を受賞。意外だったのはダニス・タノヴィッチの『サラエボに死す』の高評価でした。
映画は、第一次大戦の発端となったオーストリア皇太子暗殺事件百周年の式典のためにサラエボにやってくるVIPのおかげで、ようやく活況を呈した名門ホテルを現在のボスニア=ヘルツェゴビナの状況に喩えた風刺喜劇。膠着状態のボスニア戦争を、中立地帯に取り残された敵同士の2人の兵士に喩えた『ノー・マンズ・ランド』でデビューしたタノヴィッチ監督らしい作品ですが、『ノー・マンズ・ランド』も『サラエボに死す』も、見事に戯画化できていると感心はするものの、作品としての深みが足りないように思いました。
今年は強い映画があまりなく、批評家も一致して高評価だった『海の火』の金熊賞は納得ですし、アルフレッド・バウアー賞も芸術貢献賞も納得で、メリル・ストリープを長とする審査員の裁定はおおむね順当だったように思います。
賞は逸したものの、コンペのもう1本のドキュメンタリー『ゼロ・デイズ』もとても面白く見ました。映画が描いているのはサイバー戦争。イランの核開発を止める目的でアメリカとイスラエルが開発したコンピューターウィルスがめぐりめぐって全世界にばらまかれ、アメリカを攻撃するために使われるという怖い映画でした。
またベルリナーレ・スペシャルで上映されたマイケル・ムーア監督の『次に侵略するところ』は、おなじみマイケル・ムーア監督がアメリカ国旗を持ってヨーロッパ各国を"侵略"、それぞれのよいところを"略奪"するというユーモアたっぷりのドキュメンタリー。ムーアが略奪するのはイタリアの長期有給休暇や、スロベニアの大学教育無料化、フランスの豪華な学校給食などなど。見ているうちに、それらが必要なのはアメリカ以上に今の日本であることに気づき、とても笑って見ていることは出来ませんでした。『次に侵略するところ』は『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』という邦題で5月に日本公開されます。
【受賞結果】
金熊賞/最優秀作品賞:「海の火」監督ジャンフランコ・ロージ
銀熊賞/審査員大賞:「サラエボに死す」監督ダニス・タノヴィッチ
アルフレッド・バウワー賞:「悲しい秘密への子守歌」監督ラヴ・ディアス
監督賞:ミア・ハンセン・ラヴ「未来」
女優賞:トリーヌ・ディルホム「コミューン」監督トマス・ウィンターベア
男優賞:マジド・マストゥラ「ヘディ」監督モハメッド・ベン・アティア
脚本賞:トマシュ・ワシレウスキ「ユナイテッド・ステーツ・オブ・ラヴ」
監督トマシュ・ワシレウスキ
芸術貢献賞:李屏賓「長江図」監督楊超の撮影に対して
写真(上)は「8時間を超える大作『悲しい秘密への子守歌』上映後に挨拶するラヴ・ディアス監督
写真(下)は「今年のポスターが貼られた広告塔」