12月1日は、夜の閉会式前に、見残していたコンペ作、「DLARES DE ARENA(砂のドル)」と「AS YOU WERE(あるように)」の2本を見た。
「DLARES DE ARENA」(2014年、アルゼンチン・メキシコ・ドミニカ合作)は、同年齢のメキシコのイスラエル・カルディナス監督とドミニカのローラ・アメリア=グズマン監督の共作だ。
ドミニカのビーチ、島の若い女性ノエルは、相棒を兄と偽ってはリゾート客に近づき、売春などで金品を得ていた。彼女は島から出たいという夢を持っている。一方、パリから訪れて滞在するアンは、彼女の人生の終盤を太陽の下で過ごしたいと、移住を考えているのだが、まだ果たせずにいる。ノエルはアンの"遊び相手"となり、アンは彼女をパリに連れて行くと約束する。果たして2人の夢はかなうのか?
人生の終盤を迎えた孤独な富裕層が、リゾート地を訪れるのはなぜだろう?
これまでのしがらみとは関係なく、ドル(カネ)さえ払えば、心の空白を埋めてくれる存在を「手軽に」得られるからではないか。ノエルらは、そこにつけ込んでいる。アンは同姓のノエルに親密さを感じ、彼女のいない「時間」に喪失感を覚えるが、ノエルにとってみれば、島を出るために利用できる存在の1人でしかない。だが、ノエルは妊娠していることが分かり、相棒との仲も最悪になっていく...。
監督はビーチの美しさ、アンとノエルが海で泳ぐ際の海中シーンなどと対比させることで、人間の心の在りよう、途上国の現実を浮かび上がらせたともいえる。互いに利用し合う関係でなくなったとき、初めて互いが相手を「ひと」と感じるようになる。ラストは、ノエルを失ったアンが、街をさまよいながら、自らを立ち直らせようとする姿だった。
【写真】ノエル(左)とアンには、越えられない溝が...(「DLARES DE ARENA」より)
「AS YOU WERE」(2014年)は、シンガポールのリャオ・ジェカイ監督の作品。幼なじみの男女が、離れ離れになりながら、静かに、しかし確実に再会への道を歩むさまを、3話形式で表現したもの。
その3話は、年代順ではなく、前後に入り組み、バラバラにされる。しばしば、小さい頃の原風景(小さな島)から現代のシンガポールの高層ビルが照射される中で、2人の成長や2人の距離などが暗示される。最後は音楽が2人を結び付けるのだが、穏やかなナレーションとリズム感のある画面が、意欲的な3話構成に、しっかりと一体感を与えていた。
【写真】幼き日の思い出は、2人を結び付ける(「AS YOU WERE」より)
<<< >>>
閉会式は午後7時半から、ロワール川の中州にある国際会議場「シティ・コングレ」で開かれ、 "香港のクロサワ"といわれたキン・フー監督の武侠劇「残酷ドラゴン・血闘!竜門の宿」(1967年)が上映された。この作品は中国が舞台だが、台湾で製作され、今回は台湾文化財団による修復(リマスター)版で上映された。
キン・フー監督はワイヤー・ワークの発案者。代表作の「侠女」(1971年)ではトランポリンを使ったアクションが観客をびっくりさせた。「残酷ドラゴン-」は、明朝時代の政変を背景とした善悪対決を集団抗争劇で描いたもの。カンフーの達人たちのテンポの良い動きと相まって、これぞ娯楽映画!の醍醐味を味あわせてくれた。近年のCGと合体させたワイヤー・ワークの洗練度に比べると無骨な演出だが、逆に意表を突いたアクションに観客から「オーッ」と歓声が挙がり、上映後には盛大な拍手が起きた。
さて、今年のコンペ部門だが、韓国の「自由が丘で」(ホン・サンス監督、2014年)が、ナント出身のジュール・ベルヌにちなんだ金の熱気球賞(グランプリ)を獲得した。主演は日本の加瀬亮で、コンペ部門にノミネートのなかった日本にとっては朗報だった。
続きを読む