11月29日夕の授賞式を前に、プレス向けに受賞結果の発表と記者会見が行われました。中国の映画監督ジャ・ジャンクーを審査員長とする5人の審査員が選んだのは、最優秀作品賞がフィリピンの『クロコダイル』、審査員特別賞がイスラエルの『彼女のそばに』、そして中国の『シャドウデイズ』にスペシャル・メンションを、という結果でした。
【写真】受賞者と審査員。前列左が作品賞のフランシス・セイビヤー・パション、右がスペシャル・メンションのチャオ・ダーヨン。後列右から審査員の柳島克己、ジャ・ジャンクー、張昌彦、リチャード・ローマンド。
フランシス・セイビヤー・パション監督の『クロコダイル』はフィリピン南部の湿地帯で少女がワニに襲われて亡くなったという事件をドラマ化した作品で、再現ドラマの部分とドキュメンタリー部分を、村の長老が語るワニ神話で包んだ、不思議な味わいの作品でした。パション監督は2010年のネクスト・マスターズ(現タレンツ・トーキョー)修了生で、『イロイロ ぬくもりの記憶』(12月13日より日本公開)のアンソニー・チェン監督とは同室だったそうで、劇中で母親を演じたアンジェリ・バヤニは、『イロイロ』では主人公の少年と心を通わせるフィリピン人のメイドを演じているという繋がりがあります。
アサフ・コルマン監督の『彼女のそばに』は、学校の用務員として働く姉と、彼女が一人で面倒を見ている知的障害のある妹との関係を描いたもの。姉を演じた監督の妻リロン・ベン・シュルシュの実体験が基になっていて、姉妹の親密な愛情関係と、愛する者に束縛され、自分の人生を失ってしまう女性の痛々しい姿が胸に迫ってくる作品でした。
ヨルダンの『ディーブ』やイランの『数立方メートルの愛』といった、まとまりのいい、よく出来た映画でなく、荒削りながらアイデアの優れた『クロコダイル』が選ばれたことは、フィルメックスの主旨に合った、いい選択だったと思いました。また、中国の『シャドウデイズ』にスペシャル・メンションが出たことは審査が割れたことをうかがわせますが、その点について質問したところ、スペシャル・メンションは作り続けることを応援するという意味で、各賞は審査員の全員一致で決まったとのことでした。
私が特に感銘を受けたのは、パク・ジョンボム監督の『生きる』でした。山崩れで両親を失い、神経衰弱の姉とその娘の面倒をみながら、山奥の味噌工場で働く男の必死に生きる姿を描いた3時間近い作品で、市山ディレクターとのインタビューにもあるように低予算で撮られていますが、そんな悪条件を突き抜けるような監督の意志とパワーに圧倒され、この力作が賞から漏れてしまったことを、とても残念に思いました。
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