非日常の検死と愛憎が絡まる(「検 死」)
チリのコンペ作品「検死」(2010年)はラテン世界の濃厚な味わいが魅力的だった。
冒頭、タンクローリーがキャタピラ音を響かせて行き去ると、向かいの家を観察、近寄ってのぞき込む男、マリオ(アルフレッド・カストロ)が登場する。死体の検死報告書を作る仕事をしている彼は55歳。向かいの家の住人、キャバレーの踊り子、ナンシーに恋心を募らせているが、1973年の軍のクーデターで、コミュニストのシンパだった彼女の家は最初に狙われる。クーデターで死体が山積みになり、仕事に追われるマリオだが、頭の中はナンシーのことばかり。ある日、彼女が自宅の隠し部屋に隠れていることに気付いた彼は、食事を差し入れるなどして彼女を守ろうとする。ところが、彼女は恋人と一緒に隠れていたことを知り、隠れ部屋から2人が出られないように、狂ったように家具を積み上げる...。
パブロ・ラライン監督(34)はマドリッドで学び、メキシコ、スペイン、チリで活躍している。自身が体験のないクーデターを素材に、異常事態の日常にも反応しない男の恋心を、淡々と表現することで、その一途さを浮き彫りにさせている。また、舞台俳優として実績のあるカストロの愛と嫉妬に狂う男の演技も見所だ。
今年のベネチア国際映画祭のコンペ部門出品作。
上映前にあいさつするチュウ・ダユン監督(中央)=カトロザ2
「The High Life」(2010年)は、広州のスラム街に生きる人たちの押し込められた生活を描く。お上りさんをカモに仕事のあっせんで生きているジャン・ミン。特に夢も野心も持たず、金持ち女と付き合いながら、日々を送っている。ただ、どうにもならない気持ちになると、屋上に出て京劇の衣装を着て舞うことで心の空白を埋めていた。「確実にもうけて、より良い生活をするべきだ」とたきつけられ、その気になって知人のネズミ講にかかわり、刑務所に送られてしまう。そこでは看守が、人間性を否定する本の朗読を強制するのだった...。
チュウ・ダユン監督は、わずかの利益が人間性を侵食し、それ以上に権力は不当に人間を圧迫することを伝えたかったようだ。ジャン・ミンが口利きをして美容院に勤めたシャオ・ヤーはレイプした相手を刺して、同じく刑務所に入れられる。だが、妹の行く末を案じて前向きな彼女には、本の朗読を強制されてもジャン・ミンとは違うのだ。
上映前に監督があいさつしたこともあって、終わった後は盛んな拍手がわいた。
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週末となって、この時期特有の"マルシェ(出店)"も登場した。マルシェは1~3坪程度の三角屋根の木造小屋で、扱う商品はクリスマス用品の小物から装身具、チョコやワインとさまざま。ナントの中心ロータリー、パレ・ロワイヤルでは60近くのマルシェが肩を寄せ合うように並び、例年通り大型のメリーゴーランドも登場していた。日中の気温が氷点下近いこともあって、ホットワインを手にする人たちが多かった。夜はライトアップされ、一足早くクリスマス気分を盛り上げる。
マルシェでホットワインを楽しむ人たち=ゴーモン前広場