29日はキルギスタンのコンペ作品「南の海からの歌」だけを見て、午後からはロワール川の中州に昨年からオープンしたアミューズメント・パークを見学した。
「南の海からの歌」はカザフスタンの小さな村を舞台に、複雑に入り組んだ人種、宗教問題を、隣り合わせに住む、人種の違う2人を軸に描いたもの。
ロシア系のイワンに子どもが誕生するが、赤ちゃんは金髪(ロシア系の象徴)ではなくて黒髪(カザフスタン系の象徴)だった。イワンは、妻と隣家の友人、カザフ系のアッサンとの仲を疑ってしまう。夫婦は壮絶なケンカの後、落ち着くのだが、事あるごとにイワンには疑念がわき起こる。誕生した男の子が、馬好きで、カザフ風なのも気に障る。
15年がたったある日、イワンの妻の肉親たちがやって来て酒盛りとなった。妻の出身はカザフ、酒宴は歌に踊りにと大いに盛り上がるが、イワンだけは溶け込めず、とうとうケンカになってしまう。家を飛び出したイワンは、バイクで自分の親類の古老を訪ね、出自を知ろうとする。そこで聞かされたのは、彼の血筋は純粋なロシア系ではなく、カザフでの生活とカザフの女性を愛した者もいた-ということだった。
どこか吹っ切れて帰宅するイワン。同じころ、アッサンも馬で自分の出身地を巡りながら、自分につながる長い歴史に思いめぐらしたのだった。2人には、以前の付き合いが戻ってきそうだ。
マラット・サリュリュ監督(51)は、中央高原が持っている特殊さを題材にしながら、血筋の違う夫婦に、互いに反対の髪を持つ子供が誕生するというコミカルな設定で、その実、重い人種問題をもテーマにしている。中央高原でロシアだカザフだ、もっと目を開けばヨーロッパだアジアだ、ということすら無意味ではないかとも訴えている。でも、イワン夫婦の真剣なケンカぷりはさわやかだし、中央高原の素晴らしい景色も満載、影絵劇を進行役に使うなど、深刻ぶるより"おとぎ話"的な演出にして、エンターテイメントな作品に仕上げている。
このあたりの心憎い演出が観客にも受け、終わった直後には大きな拍手が送られていた。
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ナントは、ここ15年人口が増え続けているという。物価高が殊にひどいパリを逃れて、ナントに割安な一戸建てを求める人すらいるそうだ。
パリの日本語新聞OVNI(オヴニー)は、5年前に「生活度ナンバーワンの町」としてナントを取り上げているが、最近号ではナントの魅力を「文化が町を活性化させている」として、三大陸映画祭、クラシックをより身近にさせたラ・フォル・ジュルネ(熱狂の日)音楽祭、現代アートビエンナーレ・エスチュエールを挙げている。
そこに新たに加わったのが、「文化+町おこし」事業、中州の再開発「レ・マシン・ド・リル」だ。著名な建築家3人がプランを立て、フランス国内の技術者を結集して"動く生物"をつくり出す一方で、集大成した巨大なメリーゴーラウンド(高さ25m)を完成させ、永続的な町のシンボルとしての遊園地にしようというもの。
昨年訪れた際は、月曜日で休園。木と鋼を組み合わせたゾウ(高さ12m、幅8m、重さ45トン)が動くところは見ることができなかった。また「機械たちのギャラリー」の人が乗って楽しめる小型のイカやアンコウ、エイなども、眺めるだけで終わっていた。
今回は、動くゾウを確認し、「機械たちのギャラリー」の新人たちに合うのが目的だった。
小雨模様のあいにくの天候だったが、子ども連れで大にぎわい。ゾウは、それこそノッシノッシと歩くだけでなく、鳴き声をあげ、鼻を振り上げながら水も吹き出す。そして動くイカやアンコウ、カニの幼虫などは、もっと楽しい。微妙な動きがちゃんと再現されているだけでなく、入場者がスタッフの指導で運転できるのだ。スタッフは「アンコウの運転者は、力がないとダメ。毛むくじゃらの大柄の人、志願してくれませんか」と、大道芸人さながらの口上で入場者の興味を引く。選ばれるのは普通の大人や子どもたち。アンコウの口を大きく開かせ、背びれをばたつかせ、さらには"毒ガス"まで吐く。乗れなかった人たちからも大拍手。時間はあっという間に過ぎていた。
全体の完成は2013年。遠大な計画だが、完成したものを順次公開して、未来の来場者を早くも取り込んでいる、何ともしたたかだ。もっと関心のある方は「Les Machines de l'ile」プロジェクトのサイトをご覧ください(英語版)。
(桂 直之)
写真(上)コンペ作品を見終わった後、評価を投票する観客たち
写真(中)客を乗せ、鼻を振り上げて歩く巨大なゾウ
写真(下)乗客の操作で口を大きく開け、"毒ガス"を吐くアンコウ