壇上のロバート・デ・ニーロが最高賞のパルムに『ツリー・オブ・ライフ』の名を告げると、副会場のドビュッシー・ホールで授賞式の中継を見ていたプレスの間から、どよめきがあがりました。
このレポートでもお伝えした通り、"今年のカンヌはテレンス・マリックにパルムを与えるためにある"、というのがプレスの間での通説で、私の友人など、"ロバート・デ・ニーロはそのために審査員長に選ばれた"とまで言っているほど。私は『ツリー・オブ・ライフ』がとても好きでしたし、マリックの経歴を考えれば納得の受賞だと思いますが、ストーリーのない、難解な内容には評価が分かれていました。
2席のグランプリには、賞の常連ダルデンヌ兄弟とヌリ・ビルゲ=ジェイランが並びました。『少年と自転車』はダルデンヌ兄弟らしいヒューマニズムに溢れた作品でしたが、彼らの他の作品に比べると少し物足りなさを感じました。逆に、ビルゲ=ジェイランの『昔々、アナトリアで』は、ありふれた殺人事件を通じて人間の弱さや悲しさを細密に描き出した傑作で、3年前に監督賞を獲った『3匹の猿』より遙かに力があり、今年でなければパルムを獲っていたかもしれません。
プレスが最も沸いたのは、今年、最も広く支持を集めた2本、ニコラス・ウィンディング・レフンの『ドライヴ』とミシェル・アザナヴィシウスの『アーティスト』に、それぞれ監督賞と男優賞が与えられたときでした。が、最も驚いたのは『メランコリア』のキルステン・ダンストの女優賞。というのも、数日前の騒動でラース・フォン・トリアー監督に"ペルソナ・ノングラータ"の処分が下された後、彼の作品がどう扱われるかに注目が集まっていたからです。女優賞を獲らせたことは、トリアー作品の無視できない力を映画祭が認めている意思表示と私は理解しました。ただし、これ以上問題が悪化するのを避けるためか、授賞式後に行われる受賞者の記者会見にダンストは現れませんでした。
残念だったのは、私が最も好きだったアキ・カウリスマキの『ルアーヴル』が賞から漏れてしまったことです(ただし、国際映画批評家協会賞を受賞)。実は、授賞式の前日、シネマテーク・スイスの元館長でカンヌ映画祭参加54回目の大長老、フレディ・ビュアシュさんから、"カウリスマキは本賞の審査員には受けてないよ"と聞いていたので、この結果には驚きはしませんでしたが、さらに、犬のライカ(5代目)まで、『アーティスト』で大活躍するジャックラッセルテリアのアギーにパルム(名犬賞)をさらわれ、次点の審査員特別賞に終わってしまいました。
コンペティション部門 | |
パルム・ドール |
『ツリー・オブ・ライフ』監督テレンス・マリック(アメリカ) |
グランプリ |
『昔々アナトリアで』監督ヌリ・ビルゲ=ジェイラン(トルコ) |
『少年と自転車』監督ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ(ベルギー) | |
監督賞 |
ニコラス・ウィンディング・レフン『ドライヴ』(アメリカ) |
審査員賞 |
『ポリス』監督マイウェン(フランス) |
男優賞 |
ジャン・デュジャルダン『アーティスト』監督ミシェル・アザナヴィシウス(フランス) |
女優賞 |
キルステン・ダンスト『メランコリア』監督ラース・フォン・トリアー(デンマーク) |
脚本賞 |
ジョセフ・シダー『脚注』監督ジョセフ・シダー(イスラエル) |
ヴルカン賞(芸術貢献賞) | |
ホセ・ルイス・アルカイネ、『私が生きる皮膚』監督ペドロ・アルモドバルの撮影に対して。 | |
ジョー・ビニ、ポール・デイヴィス、『ケビンのことを話そう』監督リン・ラムジーの編集と録音に対して。 | |
短編コンペティション部門 | |
パルム・ドール |
『クロスカントリー』監督マリナ・ヴロダ(ウクライナ) |
審査員賞 |
『スイムスーツ46』監督ワンネス・デストープ(ベルギー) |
ある視点部門 | |
ある視点賞 |
『アリラン』監督キム・ギドク(韓国) |
『途上の停止』監督アンドレアス・ドレーセン(ドイツ) | |
審査員特別賞 |
『エレナ』監督アンドレイ・ズヴィアギンツェフ(ロシア) |
監督賞 |
モハメメッド・ラザルス『さよなら』(イラン) |
カメラ・ドール新人監督賞 | |
『アカシア』監督パブロ・ジョルジェリ(アルゼンチン) | |
シネフォンダシオン部門 | |
1等 |
『手紙』ドロテア・ドロメヴァ(ブルガリア) |
2等 |
『ドラリ』カマル・ラズラク(モロッコ) |
3等 |
『夜間飛行』ソン・テギュン(韓国) |
国際映画批評家協会賞(FIPRESCI) | |
コンペ部門 |
『ルアーヴル』監督アキ・カウリスマキ(フィンランド) |
ある視点部門 |
『政府の演習』監督ピエール・シェレール(フランス) |
監督週間&批評家週間 |
テイク・シェルター』監督ジェフ・ニコルズ(アメリカ) |
エキュメニック賞 | |
『ここがその場所かもしれない』監督パオロ・ソレンティーノ(イタリア) | |
次点『ルアーヴル』監督アキ・カウリスマキ | |
『それで今からどこへ行く?』監督ナディーヌ・ラバキ(レバノン) |
パルム・ドール『ツリー・オブ・ライフ』プロデューサーのディーディー・ガードナー(左)とビル・ポーラッド
グランプリ『少年と自転車』のジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督
監督賞『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフン監督、左は主演のライアン・ゴスリン
審査員賞『ポリス』のマイウェン監督
男優賞『アーティスト』のジャン・デュジャルダン
短編コンペ部門パルム・ドール『クロス』のマリナ・ヴロダ監督(左)と審査員賞『スイムスーツ46』のワンネス・デストゥープ監督
カメラ・ドール『アカシア』のパブロ・ジョルジェリ監督