●開催が決まるまで
今年、開催が危ぶまれていた東京フィルメックス。
内部でいったい何があったのか。開催決定に至るまでの状況を、理事長である市山尚三さんにうかがいました。
――今年はTIFFとフィルメックスは別々に開催するんですね。
市山:今年は10月28日,29日の週末に朝日新聞の大事なイベントが入っててベタで押さえられない、ここはいいけど、ここはダメみないたところがあるということで、押さえられたのが今発表している期日のところだったんです。公式な理由としてはそこです。
――私が聞いたところでは、予算の関係とか。
市山:予算はあるんですが、朝日ホールを使えない日が出てきた。そもそもTIFF開催期間の朝日ホールを押さえてなかったというのが一番の大きな理由です。
●開催場所・日程の調整で難航
――毎回、次の年の開催期間を押さえてるんじゃなかったでしたっけ?
市山:本部企画とかが入るとダメなんです。今年も11月19日から押さえましたというんで、なぜといったら18日に落語が入ってた。そういう肝いりの企画が入っているとそっちが優先され、それがまん中に入ると、全期間通して使えない。朝日ホールはスクリーンを張り替えたり、いろんな作業があるんで、1回撤収してからまた入ると、また半日使えないみたいなことになり、しかもお金は全額払わなきゃいけない。
――市山さんは今、フィルメックスにはノータッチなんですか?
市山:去年は完全にノータッチだったんですが、金谷重朗君が辞めたんで、今年は完全にタッチしているというか(笑)、プログラミングは神谷直希君がやっているんだけど、今のスタッフで出来ないところを僕がやってる感じです。
●資金難も影響
今年は開催できるかどうかも危機だったんです。6月くらいまでに(資金が)集まらなかったら、今年は中止せざるをえないみたいな話まであったんですけど、今年は文化庁が中規模映画祭の助成金というのを始めた。それは芸術文化振興基金じゃなくてダイレクトに助成するというものです。ただこれは助成をとれる映画祭は5つくらいに限られていて、フィルメックスとか山形とか、幾つかの映画祭がもらった。興味があれば、文化庁のHPを見ていただければ出ているはずです。それと東京都がまたまたイレギュラーに助成金を始めたんです。東京都は今までタレンツ・トーキョーには全額出しますと、これはいいんですが、それ以外に、オリンピック前にオリンピックのCMを流すというのが条件の助成があって、それが結構出てたんですが。それがオリンピック後になくなって、この2年間くらいまったくなかったんだけど、今年また復活したんです。それで文化庁と東京都から助成が入った。あとはシマフィルムとその他の寄付金を合わせれば何とか出来るということになり、それでGOを出したということです。来年度についてはわかりませんが、とりあえず今年は文化庁と東京都で資金が確保できたんで、できることになりました。
●客が入らない悩み
ただ、やっぱり朝日ホール8日間というのはかなり厳しい。しかも、平日にやってもお客さんが入らないんです。あそこまで広いところでやる必要はない。と言えば、そんな諦めていいのかということなんだけど、平日の昼間にイスラエルとか中東の映画をやってもガラガラなんで、それで今年は最初の3日間をヒューマントラストシネマ有楽町でやって、5日間を朝日ホールでやることにしました。ちょっと変則的なんですけど。
――朝日ホールがいっぱいにならないのは前から分かってたんじゃないですか?でも、あのくらいの広さが欲しいとも言ってた気がする。
市山:入るものは入るんですよ。
――特に日本映画は。
市山:今年は去年よりは入りますよ。日本映画も。去年はとにかく満席になったのが1本もなかったんです。一昨年は塩田明彦監督の映画でアイドルが来たのと、濱口竜介監督の『偶然と想像』と、香港の『時代革命』で、3作品満席だったんですが、去年はとにかく1本も満席にならなくて、入場料収入も激減して、しかも芸文振の助成金が半減してという、底の状態でした。
●客の入り楽しみな日本映画
――踏んだり蹴ったりだったんですね。
市山:今年のラインアップの中には、僕が見る限り、3本は満席になるだろうというものが入ってます。
――今年はTIFFと重ならないから、TIFFへ行く人も来てくれるし。
市山:実は統計を取ってみたんです。TIFFと重なってるときと重なってないときがあるじゃないですか、それでフィルメックスのスタッフが統計をとったら、変わってなかった。ただ、プレスの人たちは増えてた。
――でも、それは作品によると思うな。
市山:たぶん去年は作品が弱かったんだと思います。核になるようなものがなかった。オープニングがジャファル・パナヒで、クロージングがリッティー・パンだったでしょ。両方とも確かに巨匠ではあるけれど、日本で満杯になるような監督たちじゃない。じゃあ他に何か逃してたかといえば、逃してた作品もあまりないような気がする。東アジア系の映画が凄く少なかったし、あっても、そんなに入るようなものがなかった。去年はラインアップが悪かったというよりは、それぐらいしかなかったのかもしれない。逆に今年は少なくとも3、4本は満杯になりそうなものがある。
●来年につながる数字を
――では、今年は来年につながるような数字を出しておかないといけないですね。
市山:そうなんですよ。数字もそうだし、お客さんへの見え方というか。
――存在意義のようなものをもう少しアピールした方がいいですね。
市山:そうなんです。
――市山さんはTIFFへ来ちゃったし、TIFFでも十分面白いアジア映画が見られるからフィルメックスはいいやという風にならないか最初から心配してたんです。
市山:今年は面白い映画がありますよ。あえてTIFFでやってない映画がある。
――忖度した?(笑)
市山:してないけど、やっぱりフィルメックスでやった方がいい映画がある。TIFFはガラとかコンペだと大きなスクリーンでやるんだけど、ワールドフォーカスになるとシャンテとかヒューマントラストシネマ有楽町になってしまう。満席にはなるけど、それ以上の観客は見られない、ということがあるんで、そういうのはフィルメックスで。
――フィルメックスの方がちょっと広い。
市山:600ありますからね、朝日ホールは。
――シャンテは200?
市山:220席ですね。
――映画によっては満杯な感じになるからいいんだけど。
市山:マイナーな国の映画だと、あれがちょうどいい。本当はフィルメックスのコンペでやっているような映画はシャンテでやった方がいい。コロナのときにシャンテを借りたことがあったんですが、あのときにすごくいいと思ったのはリッティー・パンの映画で満席にはならなくても、それなりに人がいる感じがする。
――映画は大勢の観客と一緒に見た方が楽しいですから。今年はフィルメックスの情報が出てくるのが遅かったんで、やるのかやらないのかハラハラしました。
市山:それは都の助成金が決まったのが遅くて、6月いっぱいくらい、やるかやらないか決まらなかった。一応、7月の1週目に、都から結果が来たんで、これでやろうということになった。
――とりあえず、明後日(10月4日)に記者会見がありますね。
市山:今年はフィルメックスのコンペもかなりクオリティが高いです。
10月2日、東銀座の東京国際映画祭事務局にて。